「カープファンは他のチームのファンからどう思われているのだろうか」という文春オンライン記事が、カープファンからの勇気ある問題提起として話題になった。以下は当時の私のコメントである。


問題提起はされたが、やはり荷が重かったのか、問題の入り口で立ち止まってしまっていた。その後の長谷川昌一氏によるフォロー記事での杉作氏への回答を引用する。


そして、本文中にあった「他のチームのファンから嫌われているのではないか」という問いを考える。答えづらいことではあるけれども、「イエス」と答えざるを得ない一面もあるとは思う。でも、それは何度も繰り返すように「一部の過激な、過剰なファン」の目に余る行為についてだけだ。当然のことながら、カープファン全員が嫌われているはずがあるわけがない。そしてこれは、どの球団にだって当てはまる問いであり、答えなのだ。



問いに答えてはいるし、私も同感だが、ど真ん中の一般論である。杉作氏への慰めとしてはさすがに説得力に欠けるのではと感じた。

本稿は杉作氏の問いに対する私なりの回答である。私が知りたかったのは、どのように、なぜ、嫌われているかである。そのためにアンチ広島の人々の声を集めることにした。

2018年日本シリーズ期間(10/27~11/3)中に、バカープあるいはバカープファンという語を用いたツイートが1421回行われた。その中から100を無作為抽出して分類した。また、比較対象として、2017年日本シリーズ期間(10/28~11/4)中のベイスターズ蔑称(ハメカスあるいは雑魚浜、726回)でも同様の分類をした。

日本シリーズ期間中としたのは、その他のNPBの試合がないために幅広いアンチの声が集まると期待したからだ。
蔑称でツイートを絞り込むことで、ツイートの主をほぼアンチの人々に限定でき、憎悪の原因に容易に近づくことができる。大まかな傾向をつかむには、100という数は悪くない。比率の95%信頼区間は最大で±9.8%となり、半分くらいとか、1,2割くらいという精度の話はできる。

結果を図にまとめた。
蔑称円グラフ
ツイートで蔑称を使う動機に着目して分類を試みた。なお、分類例として示したものには、標本の100ツイート以外の事例も含まれるが、基準を示すためとご理解いただきたい。

1.自虐、冗談?
自らに対して使うなど、否定的な意味を込めない使い方。

2.蔑称に対する反応
蔑称を使うことも充分恥ずべき行為、一部の不心得者と一緒にしないで欲しい。蔑称を使われてしまう者がいて残念だなど、自発的でない使い方。

3.ルール、マナー違反
トイレでの充電、某YouTuber批判などに言及したもの。具体的な事例を含まない、ルールを守らないから嫌いといった意見表明も含む。

4.座席、チケット
カープのグッズ着用が禁止された席の購入および立ち入り、マツダスタジアムのビジターパフォーマンス席での空席、カープファンの各球場での多さなどに言及したもの。ヤフオクドームの内野席での立ち上がっての応援はルール違反でもあるが、場所をわきまえない行為ということで座席の要素が強いと考えてこちらに含めた。

5.その他、単純な侮辱や動機不明なもの
他球団に対して見下した発言、負け惜しみなど、調子に乗っているとかイキッているとされる言動に対する反発や、盗塁失敗や負けた直後に発せられたものも含まれる。今回は深く立ち入らない。

比べると、球場で嫌われる広島、ネットで嘲笑される横浜といった構図が見えてきた。

アンチ広島ツイートでは、球場での行為に言及したものが少なからずあるのに対して、アンチ横浜ツイートにはほとんどない。

アンチ横浜は上位10アカウントだけで、171ツイートしており、その多くがネットでの横浜ファンの珍コメントに関する掲示板のまとめサイトへの誘導である。

また、広島ファンが自ら蔑称を名乗ることはかなり例外的だが、横浜ファンの一部は、単なる横浜ファンの別名くらいの感覚で使うようだ。


この差がなぜ生まれたか、素朴に受け止めれば、広島ファンの行いが悪く、横浜ファンは品行方正だったということになる。

しかし、私はこの見方には懐疑的である。横浜スタジアムと周辺で、ルール違反(ビン・カンのスタンドへの持込み、禁止場所での喫煙)をしている横浜ファンを毎回見かけるからである。

横浜の蔑称の使われ方を見ると、まだネットスラングの域にあり、球場などでのトラブルにそれほど関心が向いていなかったのかも知れない。

ハメカスアンチbotの固定ツイートには、まさに「インターネット上で最もマナーが悪い野球ファン」と書かれている。

つまり、ハメカスの定義に球場でのルール違反や迷惑行為は入っておらず、仮に目撃されても、ハメカスとしては認識されなかった。対してバカープという言葉は、より普及して定義も拡大しているのではないか。

この見方も一理あるとは思うが、急所を外している。そもそもハメカスの定義がバカープのように拡大しなかったのはなぜかという疑問が残るからだ。先ほど述べたように、広島ファンと横浜ファンの民度の差ではない。

私の結論は単純である。球場での観客数の差だ。どこのファンも、明文化されたルール以前の感情レベルで、ここまでは「うちの席」という縄張り意識があり、そこに「侵入してくる」他球団ファンに寛容にはなれない。各球場とも着用グッズが制限されたホームあるいはビジター専用席が主に外野席に設けられているが、内野席の大半はルール上はそうした制限はない。しかし、多くの人は縄張りを意識して、内野席でも応援するチームのベンチがある方の席を優先的に選ぶ。とはいえ、両チームのファンが同数ということはないので、満席に近づけば必然的に反対側の席にはみ出すファンが出てくる。

ホームチームのファンが内野席ではみ出すのは比較的許容されている。しかし、近年はホームのマツダのみならずビジターの球場でも、カープファンが非常に多い。結果、縄張りを侵すのはどうしてもカープファンが目立つことになる。さらに、マツダでは立見しやすい設計が仇となって、ビジター応援席を入場券代わりにするカープファンが問題化してしまった。観客の数で劣勢を感じている他球団ファンの苛立ちこそが憎悪の根幹である。

表面上はアンチの人々は球場などでのルール違反に反応しているように見える。しかし、ルール違反の中でも、座席やチケットに関することに特に厳しい。内野席での立ち上がっての応援への反応の裏には、「ヤフオクの内野に何でこんなにいるの?」という本音があるはずだ。そのイライラが下地としてあるから、どこのファンの中にもいる禁止場所での喫煙やトイレでの充電にも「これだからバカープは困る」という反応になる。

数の差というのは単純ながら解決は難しい問題である。有効な対抗策を見いだせない無力感がアンチの原動力なのかもしれない。


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