すき間ベイスターズ

他の人が拾わないすき間ネタを求めていった結果、経済系プロ野球ブログの色が濃くなっています。 スポーツナビ+から引っ越して来ました。

ハマスタ買収

先日(株)横浜スタジアムの2016年1月期の有価証券報告書が公表された。ベイスターズ傘下になって初の有価証券報告書が出たわけだが、このこと自体が興味深い。もし、今回の買収で株主が25名未満になっていれば有価証券報告書は出されなかった可能性があった。

実際には、買収後の株主数は130名である。このまま5期末連続で株主数が300名未満であれば提出義務免除の申請が可能になる。よって、あと3回は有価証券報告書が出されるが、その後はなくなるものと思われる。

経常利益はDeNA参入後最高の7.3億円で、純利益は4.4億円。周知の通りDeNA参入前の方が球団との契約が有利であったため、史上最高ではない。見つけた数字での最高益は、1998年の優勝シーズンが含まれる1999年1月期の経常利益13.0億円、純利益6.7億円であった。

一方、ベイスターズは2015年度約3億円の赤字見通しだそうだ。次期からはベイスターズはハマスタ株式の持分の76.87%を連結の利益として得られるため、ぎりぎり黒字が見えてきた。とはいえ、選手年俸最低レベル、客席ほぼ満員でやっと黒字では心もとない。現状は経営環境としては広島市民球場時代のカープと大差ない。黒字は可能だが、有力選手を残留させたり、FAや外国人の大物を取ってくる余裕はない。

当然、一体経営でどれだけ稼ぎを伸ばすかがチーム強化に直結する。筆者は球場の広告を増やしてくるのではと予想していたが、見た目の印象は去年とあまり変わらない。三塁側ファールグラウンドにイオンが入ったくらいしか気がつかない。楽天は広告収入が多く、広島はグッズ販売が多いのだが、DeNAは飲食でまず勝負するようである。

オリジナルビール、ホットドッグ、から揚げなど新メニューを開発し、イニング間に一般客がフライキャッチに成功するとそれらの増量を行い、アピールに努めている。余談ながら筆者はホットドッグを食べた直後にフライキャッチが成功し後悔したので、今後観戦に行かれる皆様は購入のタイミングに注意されたほうが良い。また、オリジナルメニューのロイヤリティーなどの名目で球団本体に直接お金が入るようにして、税負担を少なくすることが予想される。

実は、スタジアム経営の数字が公表されるのはなかなかない。同程度の詳細がわかるのは、札幌ドームくらいである。残った株主の中にはおそらくDeNAの買収に批判的であった人もいるだろうが、おかげでハマスタの財務状況がしばらくは公開されることになった。あえて売らなかった株主に感謝したい。
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正直驚いた。ハマスタ株を売ってもオーナーズシートは元の株主に残るとオーナーズクラブ理事が語った。

 理事の山田氏が言う。

「オーナーズシートは会員の大きな特典。当時、席がもらえるのならと出資を決めた人がほとんどだった。ただ、株に紐づいている株主優待とは違って、あくまでオーナーズ・クラブの会員としての権利です。誤解している人も多いようですが、今回のTOBで株を売ったからといってクラブから除名されるわけではなく、オーナーズシートの権利がなくなることもありません」

(Number Web『横浜スタジアムTOBの命運を握る?“最大勢力”市民株主たちの「声」。』)


しかし、有価証券報告書にははっきりと株主に対する特典と書いてある。

株主に対する特典 当社設立時株式1口5,000株単位に対し優待席1席

(EDINET提出書類 株式会社 横浜スタジアム(E04682)有価証券報告書54ページ)


TOBの条件を詰めていく過程で、買収を成功させるためにオーナーズシートは手をつけないという譲歩をDeNAが選んだのだろう。オーナーズクラブ恐るべし。また、DeNAがかなり市民株主の心情を酌もうとしていることもうかがえる。

ハマスタの財務内容からすると提示された株価はかなり辛口だと前回記事「株主に厳しいハマスタ買収提案」で書いたが、懐柔策といえよう。
安いとはいえ、それでも現行の配当の60年分に当たる金額が手に入る。むろん株価に不満があっても買い手は他にいない。そして2度とないかも知れない株売却の機会であることも確かである。

さらにオーナーズシートは失わない。売ろうか迷う株主の背中を押す一手には違いない。
逆にこれでも売らない株主は目先の損得でない何かを見据えているのだろう。株主の判断に注目したい。続きを読む
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週明けからの横浜DeNAベイスターズによる株式会社横浜スタジアムの買収の開始が公表された。

DeNAが横浜スタジアム公開買い付けを開始
[2015年11月20日19時0分]

株式会社横浜DeNAベイスターズは20日、株式会社横浜スタジアムに対する公開買い付けの開始を公表した。
11月24日から来年1月20日まで、1株あたり1500円で買い付けを行う。現在、5・75%の株を保有しており、308万1株以上を買い付ければ、過半数に到達する。買付予定数は656万株で、代金は98億4000万円になる。

日刊スポーツ記事


連結子会社化に必要な過半数到達を下限とし、申し込みの全株を買い付ける。また買収後に他の株主を強制排除する二段階買収は予定していない。
10月14日報道では、はっきりしていなかった買付けの上限は、なしであった。TOBでは、買取数に上限を設定して、応募多数の場合は比例配分する方式も取れる。連結子会社化を目指すだけならばこの方が安上りである。そのため、私は上限過半数到達の総額100億円を想定して、前回記事「巷でいうほどハマスタ買収は儲からない」を書いた。

しかし、実際は総額約100億円とは全株取得の場合であった。費用対効果は私の想定の倍であり、何の相乗効果もなくとも年利5%程度にはなる。応募全株を買い取ることにしたのは、買えば買うほど儲かる株価に設定したからである。

株価についてはかなり強気な設定だ。DeNA側の依頼した株式価値算定書の評価額1,321 円~1,660 円ではほぼ中間だが、ハマスタ側の依頼した株式価値算定書の評価額1,457 円~2,166 円の下限に近い。

私が安いと感じたもう一つの理由はハマスタの財務状態である。純資産が147.8億円あり、100億円を超える現金や有価証券を抱えている(2015年1月期決算)。仮に完全買収できれば、ベイスターズは即座に約50億円の純資産を増やす快挙を達成することになる。そういう意味では、提示した株価は株主に単なる金目当てと受け取られかねない危険をはらんでいる。そこで、二段階買収は予定していないことを表明することであくまで事業を発展させていくための買収ということを強調しているのだと思う。

ここまで強気になれる背景は、友好的買収の建前上ひとことも触れられていないが、本拠地移転の切り札を握っていることだろう。確かに大規模改修の必要性や横浜市との契約が切れる2023年問題は減点要素だが、大規模改修で市の覚えをよくすれば2023年以降も続けられる可能性はあるわけで、大きな減点にはならないと私は考える。しかし、大前提のベイスターズに出て行かれたらハマスタの企業価値は暴落する。

撤退カードに対抗するものは現株主側にないように思える。貯め込んだ資産を配当で山分けすればDeNA提示の株価を上回るかも知れないが、市民やファンからの非難を考慮して横浜市など主要株主は反対するだろう。似たような金額ならばTOBに応じたほうが名誉は保たれる。

「今売らなくて買収不成立になれば、ベイスターズが撤退してしまうかもしれない」という北風もひそかに込められた、実にしたたかな買収提案である。今回のハマスタ買収は裏「ベイスターズ横浜残留の賛否を問う投票」でもある。ファンの一人として現株主の賢明な判断を願う。
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ハマスタ買収で、球場広告やグッズ販売の収益がまるごと球団に手に入るわけではない。
なぜなら、今回の買収が目指すのは過半数、つまり全株ではないから。ハマスタの利益の半分強が連結決算に組み込まれるに過ぎない。球団本体に直接入るのは、配当とオーナーズシート減少による内野指定FASのチケット収入増くらいである。2014年度の数字で計算すれば、連結で3億弱、球団本体で2億未満である。2015年度は増えるだろうが、それでも13億円から「半減する見込み」の球団本体の赤字を解消するには程遠いだろう。

親子会社のよしみで契約を球団有利に変更して利権を分捕れるかというと、そうではない。経営者が自社の損になる契約を結べば背任になる。しかも子が黒字で親が赤字ならば、税収が減る税務署も黙っていない。DeNA以外の株主から訴訟を起こされるかもしれない。

球団と球場の経営を一体にすれば、球場の改修など投資の意思決定が速まるだけでなく、運営会社の余剰資金を選手補強などにあてられる。他球団では「広島東洋カープ」や「東北楽天ゴールデンイーグルス」が球団と球場を一体経営し黒字化や観客動員の引き上げで成果を上げている。
(日本経済新聞 2015.10.14「DeNA、横浜球場運営会社買収へ 広告料収入取り込む」)


新聞各社を比較したら日本経済新聞が一番ひどかった。広島や楽天の一体経営は、球団自らが球場の指定管理者(追記:楽天は管理許可)となっているから球場の余剰資金を選手補強にまわせる。DeNAとハマスタは、身内になってもあくまで別法人である。資金が自由に移動できない。

というわけで、買収で確かに収支は改善するだろうが、約100億円という投資額からすると微々たるもので、これが主目的とは考えられない。
「球場の改修」ぬきではこの買収はあり得ないというのが私の結論である。
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横浜DeNAベイスターズが株式会社横浜スタジアムの友好的買収を計画していると報道された。
買収の成否についてサンスポ記事は楽観的であったが、私は2つの理由からそれほど簡単なことではないと考えている。

第一に、横浜スタジアム株は2023年までのシーズンシートと年5%の配当という金のなる木だ。銀行預金や国債をはるかに上回る高金利であり、それを手間をかけて手放す必要を感じない人や、詐欺ではないかと疑う人もいるだろう。

次に、設立の経緯から細分化された資本構成である。

草創期の資本構成は、

20.0億円 設立時の市民株主。
14.8億円 増資を引き受けた横浜市、マルハ、横浜銀行、建設JV11社、在京テレビ局3社。

市民株主は、ハマスタ建設のために出資250万円1口につき1席、2023年までのシーズンシートという破格の株主優待で集められた。地元財界が中心となっている。しかし、総建設費が52億2800万円かかってしまい、いきなり債務超過という出落ちを避けるため、利害関係者が増資に応じて救済したわけである。最新の有価証券報告書を見てもマルハがDeNAベイスターズに代わったくらいで主要株主に大きな変更はないようだ。

主要株主のうち、建設JV11社と在京テレビ局3社は株を持ち続ける意味はないだろう。
横浜市と横浜銀行は現経営陣の一角を占めている。そのためこの買収に賛成と考えられる。仮に全く手放さなくとも「連立与党」とみなせるだろう。
しかし、主要株主の株をすべて合わせても発行済み株式の半分に満たない。残りは個人法人あわせておよそ500に細分化されている。TOBの成否の鍵を握るのはこの人々である。彼らが重視するものが何なのか、DeNAは読み違えるわけにはいかない。今後発表されるハマスタの将来構想や買収価格でDeNAの熱意が試される。


訂正 2017/5/3



しかし、総建設費が52億2800万円かかってしまい、いきなり債務超過という出落ちを避けるため、利害関係者が増資に応じて救済したわけである。


と、投稿当初書いたが、建設費は2023年までの営業権という無形固定資産として資産計上され、一定額を毎年償却しており、債務超過にはそもそもなり得ない。当時の私の誤解に基づく記述なので、この一文は無視していただきたい。正しい経緯は横浜スタジアム元社長の鶴岡博氏が有隣堂の発行するフリーペーパーの座談会で語られている。

  市民のほかに横浜市やテレビ局なども出資

鶴岡
それで、市民から集まったというので、横浜市も二億円出してくれた。飛鳥田市長は政治家としてすごくセンスがある人ですから、横浜市民がこれだけお金を出してくれたんだから、行政としてもお金を出して、役員も送って、市民の株を守らなきゃいけないという大義名分で議会も通した。

そしたら大洋漁業(現・マルハ)、それからTBSとフジ・サンケイグループ、もう一つ、専属中継という絡みでテレビ朝日が二億円ずつ出してくれた。だから、資本金三十四億八千万円のうち、二億円が一番の大株主なんです。

すると、逆に、株主総会で問題になった。というのは、二十億の公募にそれ以上集まったわけですから、増資になるわけです。我々に断らずに勝手に増資をやるとは何事だという話が出た。

座談会 横浜公園とスタジアム (3) Web版 有鄰,2001/1/1,有隣堂
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